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彼は蓄音機という綽名を持ち、一年三百六十五日、一日も欠かさず、お前たちの生命は俺のものだという意味の、愚劣な、そしてその埋め合わせといわん許りに長ったらしい、同じ演説を、朝夕二回ずつ呶鳴り散らして、年中声が涸れ、浪花節語りのように咽を悪くし、十分毎にペッペッと痰を吐き散らしていた。が、彼は部下の顔を痰壺の代りに使うという厄介な病気を持っていた。もっとも、彼が部下の顔へ痰をひっ掛けるのは、機嫌のわるい時に限っていた。が、彼には機嫌の良い時は殆んどなかったから、彼の不幸な部下の中で「蓄音機の痰壺」になることを免れた幸福な兵隊は一人もいなかった。
しかし私の申上るのは其事ではありませぬ、K・Rそれは私の亡き妹の名です。
*リッケルトは形式的に自然科学と歴史科学とを区別し、内容的に自然科学と文化科学とを区別する。歴史と文化との区別は対象と世界との区別に相当するであろう――前を見よ。
*カントの言葉を借りるならばHandelndesとLeidendesとの交互作用である。ロッツェの根本概念である処の交互作用も亦、物と物との間の夫である。Lotze-Metaphysik-Kap.6参照。
大里それでいいでせう。別に記事を取りに来たわけぢやなけれや……。
自然科学に於ては、――中にもその典型的なものと見做されている理論物理学に於ては――、特殊な性質を有つ対象は例外として取り除かれる。尤も自然科学の各対象が皆同様であって異っていてはならないと云うのではない。一つの一般的法則の下に摂しられる諸現象は無論同じではなくして別々でなければならないであろう、もしそうでなければ法則の普遍性――共通性――という概念自身が成り立つ理由がない筈であるから。併しこの場合単に異るということと個別であるということとは区別される必要がある。カエサルがルビコン河を渡ったという事実は無論、他の人が之と同じくルビコン河を渡ったという他の一つの事実と同じではない、それは異った二つの事件である。併し今この事を、或る誰人でも好い二人の人間がルビコン河を渡った事件としてのみ見るならば、二つの事件は異っているにしても共通の普遍的事件の二つの場合に過ぎないであろう。渡った一人はカエサルと呼ばれたローマの将軍ではなくして偶然に選び出された人類の一員でしかないであろう。この場合のカエサルは他の何人によっても置き換えることを許さない歴史上唯一の個人としてのカエサルではなくして、向の他の一人に対して単にその人と異る処の一人の人間に過ぎない。処が之に反して歴史上の個人としてのカエサルはこの人間に対して個別な人間でなければならない。前者は云わば量的個別、後者は質的個別――それのみが本当の個性をもつ――である。両者は別である。そこで自然科学の対象は量的個別は有つであろう、質的個別に対しては歴史科学のみが関心を有つのである。事実、歴史家は或る対象が普遍的な・一般的な性質を有つ限り、之を記述するのではなく、それが特殊であり個別的であり個性を有つ限り、之を記述する理由を見出すのである。歴史科学的概念構成はそれ故個別化に基く。
私は笑顔をした。
「これだけですか」
河井さんの周圍に集つた當年の少女達で、地方に居る方は兎もかくも、東京ずまひの人は皆來るだらうと思つたが、前田河廣一郎氏夫人や吉屋信子さんや河野槇子さんなどの缺席したのは意外だつた。吉屋さんは正直の處、書きぶりも考へ方も女らしく無かつたので女子文壇へは滅多に採らなかつた。今思へばふくろの中の錐だつた。其末を見ることの出來なかつたのは私の過失であつた。河野まき子さんは三輪田女學校に在る中から羨望仰視の中に立つていたが、小學校に教鞭をとるに至つてあたら天才は縮んでしまつた。
冬菜あなたこそ、『危篤』といふ言葉を、その言葉どほりに解釈していらつしやらないんぢやない?
五月十二日AveryにRooseveltMemorialexhibitionを見る。晴れたやわらかい晩。学生のインディアンダンス
「書くよ、書くよ、必ず書くよ。」と先生も調子を合せた。
おかげで私は、先生以外の三人の名前も覚えてしまった。そして辞し去る機会を失った。
頭がまとまらないとちよつとのことにも気が散りますのね。夕風がね、実は涼しいのこちらの座敷はね、でもさらさらとなどわたくしの袂はなびかないわ。そんな風流な姿態ではないの、私の袂はぶつきらぼうの元禄袖ですもの。
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